当社では『印刷のプロ』として、ハード面の品質(RGB6印刷や、カタログ診断、カラーマネジメントシステム等)だけでなく、ソフト面(マーケティング理論に基づく紙面デザインやDMのBPOサービス)でもお客様のお役に立てるよう、日々努力を続け、実績を上げております。今回はその中から当社エグゼクティブデザイナーであった、石山による『スマートカタログ製作コラム』を全3回に渡って紹介させていただきます。これから自社のカタログを製作される方、既存のカタログをリニューアルしようとお考えの方の参考になれば幸いです。
生産性が高いとはどのようなカタログなのでしょう?
簡単に言いますと、売り上げが伸びるカタログということになります。
では、売り上げが伸びるカタログはどのようになっているのでしょう。
それは、購入サイドからみると「見やすい」「解りやすい」「注文しやすい」この3つの「やすい」です。
これはカタログ機能において重要な要素です。
また、このことは購入者の方への「おもてなし」です。
なので、売り上げが伸びることになるわけですが・・・しかし購入サイドだけ良ければ生産性が高いかというと、それだけではだめです。
販売サイドにおいても「管理しやすい」「作りやすい」ものでなければなりません。
各ページの商品の販売状況がわかりやすい仕組みのレイアウトになっていて、また修正作業、改定作業がスムースにできる構造が必要ですね。
では、どのようにして生産性アップを実現させるのでしょうか?
それは、カタログ制作に2つのマーケティング手法を組み込むことです。
一つは、「スペースマネージメント」=情報に対しての最適なスペース配分 もう一つは「レスポンスアップ」=顧客の反応促進施策です。
この2つの手法をクリエイティブワークに組み込むことで、カタログの機能が大きく向上して販売活動を支援する「強いツール」になります。
情報最適配分のためのスペースマネジメント
スペースマネジメントは一般には店頭演出のための「棚割り」に使われる手法として認識されていると思います。
この「棚割り」の原理をカタログに応用したものがカタログ・スペースマネジメントです。
カタログの生産性、つまり販売量を向上させるためには情報掲載スペースが効果的に配分されていなければなりません。
最適配分の原理を4商品4ページの例で解説します。
クルマの例で解説していますが一般商品の汎用性のある原理です。
カタログの生産性を向上させる「スペース配分の原理」
左の配分例では各商品に1ページを割り当てています。
見やすいデザインになってはいますが、はたしてこれで生産性は向上するでしょうか、たしかに多種バリエーションが用意されているので選ぶ楽しさがあるのかもしれません。
しかしこれではどの商品を売りたいのかが曖昧、またどの商品が売れているのかも不明です。
右の配分例2ではどのような考えでスペースを配分したのでしょう。
1つには販売量の多いつまり儲かる商品に最大にスペースを配分するという考えです。
したがって、商品Cの売り上げはAの2倍、DやBとの比較では4倍ある商品です。
このようにセールス量に対してスペースを割り当てる手法がスペースマネジメントです。
逆に考えますと、より多くのスペースを与えるとその商品は売れるということです。
カタログ機能を向上させるレスポンスアップ手法
生産性の高いカタログは「見やすく・解りやすく・買いやすい」仕組みになっている必要があります。
それが、「おもてなし」という手法です。また、販売を担当する側にとってもそのことは「説明しやすく売りやすい」ことになります。それでは各ページがどのようになっているかを説明します。
ヘッター、フッター、サイドナビがカタログ機能を向上させます。
カタログ・スペースマネジメントではカタログ性能を向上させる手法として、ヘッダー(上部)とフッター(下部)、そしてサイドナビ(小口)の役割が重要です。
冊子のページ数が多い厚いカタログ=メガカタログほど情報の検索機能が必要です。
カテゴリ、サブカテゴリの分類を解りやすくするためサイドナビとヘッダーの部分を使います。
この例ではカテゴリの色分類だけですが、サブカテゴリの情報も合わせたデザインも必要な場合があります。
また、インデックスは単独カテゴリのみではなく、他のカテゴリもグレーで表記しています。
これは、全体のカテゴリラインナップのリマインドと現在カタログのどの位置を見ているかの目安になります。
つまり、コンパクトカテゴリ商品を見ている場合、ワゴンカテゴリ商品はその前のページにあり、クーペ商品は後のページに掲載されているのが解ります。
検索のストレスの軽減になります。また、フッター問合せ誘導として機能させています。
そのページを見ている方がそのページで問合せ先がわかる仕組みになっています。これがレスポンスを大きく向上させる手法です。
ベネフィットコピーとアクションコピーの重要なコピーワーク
解りやすいカタログにするためには、コピーワークが重要です。ここではベネフィットコピーとアクションコピーの解説をします。
商品の購買を促進するには、その特長が解りやすくコピー表現されていなければなりません。
5秒以内に読める文章で、ベネフィットを訴求します。「よく読まないとわからない」では困ります。
どうしても、いろいろなことを伝えたいので、長い文になってしまいがちですが、ベネフィットコピーは購入される方に「何を約束するかを端的に述べる」ことです。
またなぜ、その約束や実現が可能なのかを補完するために3つの理由を述べる必要があります。
このことで、興味から理解へ、欲求から購入へと誘導するプログラムになるわけです。
この、まず約束を述べ(この例の場合はらくらくドライブ)、その理由を3つの補完コピーで説明する手法を「リーズンビーイング=理由を成すコピーワーク」といいます。
従来のアイドマ手法に比べて結論先出表現です。効果の高い手法として今後の表現の主流になります。
アクションコピーの手法は電話やURLの前に「お問合せ先」とだけ入れるのではなく、「お気軽に・・・」「今すぐ・・・」などのコピーを入れると、より問合せを促進させます。
これは「協調の原理」といわれる消費者心理と行動の原理を活かした手法です。
人は「要求されるとその要求に十分に応えたくなる」という心理を使うものです。
したがって、「お気軽に」ということで「お気軽に」「今すぐ」ということでは「今すぐ」、「3日限り」といえば、その期間中に行動してしまいます。
このように、解りやすいベネフィットコピーや反応を促進するアクションコピーを有効に使うことで、「売れるカタログ」として進化させることができます。
どの商品をどこへもっていくか?売れるためのページ構成とは
スペースマネジメントは店舗の棚割りの原理を活用したものですが、では冊子を店舗とみなした場合、商品情報をその冊子のどこへ配置することで、販売が促進するのでしょう。クルマの総合カタログを例に解説します。
客導線を考慮した効果的情報配置
カタログ、とくにメガカタログはどこが多くみられているか。それは、まず表紙からつづく、フロント部分のページです。
次に最終ページで、中央部分は客導率が必ず低くなります。ここで述べています客導率とは、そのページを見る人の数のことを指しています。
したがいまして、この状況から、ページのフロント部分に一番重要な情報を掲載する必要があります。
この例では、新商品のB(オープンスポーツカー)を掲載しています。
先に説明したスペースマネジメントの原理では売り上げに対応して最適なスペースを配分することになります。
全体販売の3割を売り上げていれば、その冊子の3割をその商品に配分するわけですが、新商品は販売実績がありません。
したがって全体の20%を新商品に配分します。この20%の配分率の理由は10%では新商品の登場感、告知効果が低く効果が出せません。
またそれ以上にスペースを割り当てると、既存商品の販売低下になる危険性があります。したがって、20%以下でも以上でもいけないわけです。
この20%値を「パレート最適値」と呼びます。このように配分数値をより効果的にする改善策が「パレート改善」です。
中央部分の定番情報はカテゴリ配列順を変えてはいけない
カタログの中央部分は定番情報として編集します。定番情報位置とは、比較検討する情報ではなく、欲求目的にしたがって回遊行動を行い、目的情報にたどり着く場所です。
ここでは、検索機能の高い、探しやすい構造にデザインされていなければなりません。
そこで重要になるのが、配列順のルール化です。カタログの改定の際、その都度、カテゴリの順が変わるとそのカタログを利用する方が混乱します。
目的別情報、たとえば5ドアワゴン商品の位置がフロントに来たり後方に下がってしまっては、総合カタログとして機能的とは言えません。つまり探しにくいカタログになってしまいます。
(この原理はマーチャンダイジングスタンダードとタイプ別施策としてのプログラムがありますので別で解説します)
ラストインパクトゾーンはハウツーオーダーに使う
ページ構成で重要な部分が最終ページ(表3)です。ここはフロント部分の第一見開きに次いで客導率の高いページです。
このページはハウツーオーダー(H2O)にするのが効果的です。客導率が高いので、購入行動をここで促すためのページです。
購入方法、資料請求などが解りやすくレイアウトされていなければなりません。また、特典情報などで決定を促進させる施策も組み込んでおく必要があります。
石山智男 略歴
1954年福岡市天神(中央区今泉)生まれ。1977年からプロダクションデザイナー、アートディレクターとして、広告制作、レタリングデザイン、パッケージデザイン開発等を担当。1992年からコカ・コーラ社マーケティングプログラムのガイド制作や実施活動支援を担当。「生産性の高い売り場づくり」実現のためのスペースマネジメントをカタログや店頭演出に応用した理論を構築。またクリエイティブワークをスピーディに行うための企業セミナーを開催。ブランディング領域でもイオンプライベートブランド「トップバリュー」のパッケージデザイン開発など多数。2012年から2022年まで、土山印刷にてマーケティングミックス・デザインワークのコーチングを担当。シニアホビーコンサルとして書道、楽器演奏、スポーツの楽しみ方の紹介活動を行っている。
土山印刷では「生産性の高いツールづくり」をテーマに、カタログやDM制作担当部署向けにセミナーを実施し、手法改善活動をお手伝いしています。
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